———————————————————————-Page1(123)???0910-181008\100頁JCLS《原著》あたらしい眼科25(4):545~548,2008?はじめに重度の先天眼瞼下垂や,動眼神経麻痺,重症筋無力症などによる眼瞼下垂は眼瞼挙筋機能が不良なため,前頭筋吊り上げ術が行われている.文献的には眼瞼挙筋機能が2~4mm以下の眼瞼下垂が適応とされている1,2).その吊り上げ術の材料としては大腿筋膜や長掌筋腱のような自家組織からナイロン糸,シリコーン,ゴアテックス?のような人工素材が報告されているが,組織親和性の問題,下垂再発,感染などの合併症を総合的に考慮すると自家組織である大腿筋膜が最も良い吊り上げ術の材料であるとされている3~5).前頭筋吊り上げ術における自家大腿筋膜移植の歴史は古く,1909年にPayrが先天眼瞼下垂の治療に用いたことがその始まりである6).実際,大腿筋膜採取に伴う機能的障害はほとんどみられないが,ときに大腿部の採取部位の知覚異常や肥厚性瘢痕を生じることがある4).また,大腿筋膜採取の手技は訓練されていない眼科医にとっては困難な手技であり,そのためにも他の素材の使用が試みられるようになった4).生体組織としては保存大腿筋膜を用いた報告もみられた4)が,自家組織に比べると術後成績が悪く,未知なる感染症の発症の可能性もあり,次第に使用されなくなってきた.その代わり,人工素材としてはナイロン,ポリエステル,ポリプロピレンやシリコーンのようなさまざまなものが報告されるようになってきた2,7).ゴアテックス?は1987年にSteinkoglerらが前頭筋吊り上げ術の材料として初めて用い,良好な術後成績が得られたと報告した8,9).ゴアテックス?は1969年にW.L.ゴア社で開発されたフッ素樹脂であり,正式名はexpandedpolyte-tra?uoroethyleneである.ゴア社の資料10)によると血管外科,胸部心臓外科などさまざまな分野で現在までに1,200万例以上のゴアテックス?製品が臨床使用されている.筆者が使用しているものは1993年に販売が開始されたゴアテックス?人工硬膜である.これは従来の保存硬膜がJakob病の原〔別刷請求先〕兼森良和:〒653-0841神戸市長田区松野通2-2-34カネモリ眼科形成外科クリニックReprintrequests:?????????????????????????????????????????????????-?-??????????-????????????-????????????-???????????ゴアテックス?を用いた眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)兼森良和カネモリ眼科形成外科クリニックFrontalisSuspensionforBlepharoptosiswithPolytetra?uoroethylene(Gore-Tex?)YoshikazuKanemori???????????????????ゴアテックス?人工硬膜を用いて9症例15眼瞼の眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)を行い,その術後成績について検討した.術後,すべての症例において眼瞼下垂は改善した.創傷治癒遅延,感染およびアレルギー反応がみられた症例はなかった.1例2眼瞼のみ術後,眼瞼下垂の再発がみられた.ゴアテックス?人工硬膜は十分な眼瞼の挙上効果が得られたうえ,重大な合併症を生じることもなかったので,眼瞼下垂手術(前頭筋吊り上げ術)時の自家組織の代わりとして有用な医療材料であると考える.Frontalissuspensionsurgerywasperformedon9blepharoptosispatients(15eyes),usingpolytetra?uoro-ethylene(Gore-Tex?).Ineverycase,theblepharoptosisimprovedpostoperatively.Therewerenopostoperativecomplications,suchasdelayedwoundhealing,infectionorrejection.Only1patient(2eyes)su?eredblepharoptosisrecurrence3monthaftersurgery.Polytetra?uoroethylene(Gore-Tex?)isausefulmaterialforfrontalissuspensionsurgery,asitshowshighbiocompatibilityandgoodfunctionalresults.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(4):545~548,2008〕Keywords:眼瞼,眼瞼下垂,前頭筋吊り上げ術,ゴアテックス?.eyelid,blepharoptosis,frontalissuspension,Gore-Tex?.———————————————————————-Page2———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008???(125)ゴアテックス?を結ぶ術式では結び目による死腔が感染の原因になり,結び目が眉毛部皮膚への刺激となって露出の原因になる可能性がある.Wassermanら4)の報告でもゴアテックス?の露出は眉毛部で生じている.そのため筆者はゴアテックス?を帯状に用いて瞼板や前頭筋への固定はナイロン糸を用いて縫合する術式を用いている.さらに,上眼瞼を瞼板の1カ所のみで吊り上げた場合,三角形に吊り上がった眼瞼になり整容的に問題を生じることがあるので,筆者はゴアテックス?の下端を松葉状に加工し,2カ所で上眼瞼を挙上することにしている.まだ症例数は9症例15眼瞼と少なく,経過観察期間も平均9.6カ月と短いが,術後の感染や露出を生じた例はなく,安全で整容的にも優れた術式であると考える.さまざまな材料による吊り上げ術後の下垂の再発率についてはすでにいくつかの報告が行われている.Wassermanら4)によると102眼瞼の吊り上げ術後経過において自家大腿筋膜組織を用いた症例群では4%の再発がみられたが,ゴアテックス?を用いた症例群では再発率は0%であったと報告している.BenSimonら7)が164眼瞼の吊り上げ術後経過において自家大腿筋膜組織を用いた症例群の下垂再発率は22%に対してゴアテックス?を用いた症例では再発率は15%であったと報告しており,現在まで報告されたさまざまな吊り上げ術の材料のなかでゴアテックス?が唯一,自家大腿筋膜よりも術後再発が少ないと報告された材料である.筆者の今回の症例では,ゴアテックス?を用いた15眼瞼のうち下垂の再発は2眼瞼でみられた.再発率は13%であり,BenSimonら7)とほぼ同様の結果が得られた.ゴアテックス?は多孔性の組織であるので術後結合組織がゴアテックス?の中に入り込み,周囲の組織と癒着するため下垂の再発が少ない頭筋吊り上げ術の材料として厚さ0.3mmのゴアテックス?人工硬膜を使用した(図2).シート状のゴアテックス?人工硬膜を1×5cm大の帯状に切り出した後,下方は縦に切れ目を入れて松葉状に加工した.2つに分かれた下端を6-0ナイロン糸で瞼板にそれぞれ縫合固定した(図3).上端は?離した眼輪筋下のトンネルを通して眉毛上部の皮下真皮組織に4-0ナイロン糸で縫合固定した.固定の高さは努力開瞼により瞼縁が瞳孔中心より3mm上の高さになる位置とした.仮固定後,患者に閉瞼をしてもらい,角膜が露出する程度の閉瞼障害がみられたときは1mmほど瞼縁の位置を下げて再固定を行った.上端の余ったゴアテックス?人工硬膜は4~5mm程度を残して切除した.6-0ナイロン糸で眉毛上部と眼瞼の皮膚縫合を行い,手術を終了した.術後は創部に抗生物質入り眼軟膏を1日2回塗布し,術7日後に抜糸を行った.II結果すべての症例で術後MRD+2mm以上の開瞼が得られた.術後創傷治癒の経過は治癒遅延,感染およびアレルギー反応を生じた症例はなかった.動眼神経麻痺による眼瞼下垂の1例2眼瞼のみ,術3カ月後,下垂の再発がみられた.代表的症例として片側眼瞼吊り上げ術症例と両側眼瞼吊り上げ術症例を図4と図5に示す.III考按ゴアテックス?を用いた吊り上げ術の術式であるが,今までの海外の報告では紐状のゴアテックス?を用いて眼瞼と前頭筋の間にループ状に通して結ぶ術式が主流である3,7,12).そのループの形状によりsingleloop法7),pentagon法12)およびdoublepentagon法3)が報告されている.しかし,紐状の図4片側眼瞼吊り上げ術症例12歳,女児.右先天眼瞼下垂のため挙筋短縮術とナイロン糸による前頭筋吊り上げ術を受けたが,眼瞼下垂が残存し,術前の右MRDは-1mmであった.ゴアテックス?人工硬膜を用いた吊り上げ術後はMRDが+3mmまで改善した.術後の閉瞼障害は認めない.なお,術前より右内斜視が存在した.左上:術前開瞼,左下:術前閉瞼,右上:術後開瞼,右下:術後閉瞼.図5両側眼瞼吊り上げ術症例15歳,男児.両先天眼瞼下垂のため挙筋短縮術を受けたが,———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.25,No.4,2008(126)あたらしい眼科24:547-555,20072)WagnerRS,MaurielloJAJr,NelsonLBetal:Treatmentofcongenitalptosiswithfrontalissuspension:acompari-sonofsuspensorymaterials.?????????????91:245-248,19843)CrawfordJS:Repairofptosisusingfrontalismuscleandfascialata:a20-yearreview.???????????????8:31-40,19774)WassermanBN,SprungerDT,HelvestonEM:Compari-sonofmaterialsusedinfrontalissuspension.????????????????119:687-691,20015)BajajMS,SastrySS,GhoseSetal:Evaluationofpolyte-tra?uoroethylenesutureforfrontalissuspensionascom-paredtopolybutylate-coatedbraidedpolyester.???????????????????32:415-419,20046)PayrE:PlastikMittelsfreierFaszientransplantationbeiPtosis.????????????????????35:822,19097)BenSimonGJ,MacedoAA,SchwarczRMetal:Frontalissuspensionforuppereyelidptosis:evaluationofdi?erentsurgicaldesignsandsuturematerial.???????????????140:877-885,20058)SteinkoglerFJ:Anewmaterialforfrontalslingoperationincongenitalptosis.?????????????????????????191:361-363,19879)SteinkoglerFJ,KucharA,HuberEetal:Gore-Texsoft-tissuepatchfrontalissuspensiontechniqueincongenitalptosisandinblepharophimosis-ptosissyndrome.???????????????????92:1057-1060,199310)http://www.jgoretex.co.jp/business/medical/index.php11)YamagataS,GotoK,OdaYetal:Clinicalexperiencewithexpandedpolytetra?uoroethylenesheetusedasanarti?-cialduramater.???????????????33:582-585,199312)HelvestonEM,EllisFD:PediatricOphthalmologyPrac-tice.2nded,p204-205,CVMosby,StLouis,198413)野田実香:眼瞼下垂(3)前頭筋吊り上げ術.臨眼60:1134-1140,200614)ZweepHP,SpauwenPH:Evaluationofexpandedpolyte-tra?uoroethylene(e-PTFE)andautogenousfascialatainfrontalissuspension.Acomparativeclinicalstudy.???????????????34:129-137,1992とされている13).しかし,下垂が再発したため取り出したゴアテックス?の組織を調べたところ,結合組織はゴアテックス?の中までは入り込んでいないとする報告もある14).筆者の症例でも同じ手術手技で手術を行ったにもかかわらず,術後下垂